大判例

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東京地方裁判所 昭和46年(刑わ)2222号 判決

主文

被告人を禁錮一年に処する。

この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、自動車運転の業務に従事していたものであるが、昭和四六年四月二三日午後四時五分ころ大型貨物自動車を運転し、東京都江東区亀戸九丁目一六番七号先の信号機により交通整理の行なわれている交差点付近の道路を小松川方面から錦糸町方面に向け時速約四五キロメートルで直進してきた。右道路は、歩車道の区別があり片側三車線で、左側から幅員2.3メートル、3.8メートル、2.85メートルの三個の通行帯があつて、被告人は、その第二通行帯を進行してきたものである。被告人は、前記交差点を新六ノ橋方面に向つて左折しようと考え、右交差点の手前約三〇数メートルのところで方向指示器を出して合図しながら後方を後写鏡で一瞥し、徐々に速度を低下させながら進行し、右交差点直前の横断歩道の近くで再度後写鏡で後方を一瞥した後、新六ノ橋方面への道路右側に大型自動車が停車していたので大廻りをするため一旦右側に転把し、その直後前記交差点を左折しようとした(なお当時直進方向前方の信号機は青色信号を示していた)。このような場合、右直進方向道路の第一通行帯を後方から自動二輪車や自転車が直進してきて左折する自車と衝突するなどの危険が予測されるから、自動車運転の業務に従事するものとしては、自車の後写鏡を注視し、助手席の同乗者をして左側の窓外を見させるなどして左後方および左側方に対する安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのに、被告人は、これを怠り、前記の安全不確認のまま時速約一五キロメートルで右交差点を左折進行した過失により、折から前記第一通行帯を時速約四五キロメートルで後方から進行してきた渋谷敬三(当時三五年)運転の自動二輪車(第二種原動機付自転車)が、被告人において一旦右に転把したうえ左折を始めた当時、自車の左側方にきていたのに気付かず、右渋谷運転車両に自車前部を衝突、転倒させ、よつて同人を同日午後七時ころ同区亀戸二丁目一八番一〇号の亀戸病院において、腹腔内臓器損傷により死亡するに至らせたものである。

(証拠の標目)<略>

(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人は、最判昭和四六年六月二五日第二小法廷判決(集二五巻四号六五五頁)を引用して、被告人には本件の場合後方安全確認の義務はないと主張している。なるほど右最判は「交差点で左折しようとする車両の運転者は、その時の道路および交通の状態その他の具体的状況に応じた適切な左折準備態勢に入つたのちは、特別な事情がないかぎり、後進車があつても、その運転者が交通法規を守り追突等の事故を回避するよう適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足り、それ以上に、あえて法規に違反し自車の左方を強引に、突破しようとする車両のありうることまでも予想した上での周到な後方安全確認をなすべき注意義務はないと解するのが相当であり」と判示しており、これに先立つ最判昭和四五年三月三一日第三小法廷判決(集二四巻三号九二頁)も「道路交通法規所定の左折の合図をし、かつ、できる限り道路の左側によつて徐行をし、更に後写鏡を見て後続車両の有無を確認したうえ左折を開始すれば足り、それ以上……の義務があるとは解せられない」と判示している。しかしながら本件の場合、被告人は、三個の通行帯に区分された道路の第二通行帯を進行し、徐行を始めていたものであり、しかも左折を開始する直前大廻りをして左折するため一旦右に転把し、その直後左折を開始たものである。このような場合右道路の第一通行帯を進行してきた自動二輪車その他の小型車の運転者(右の第一通行帯は、自動二輪車その他の小型車用のものである―昭和四六年政令第三四八号による改正前の道路交通法施行令一〇条一項二号参照)は、被告人運転の車両が左側端に寄つたうえ左折するのが正常な左折であるのに、左側端に寄らずに(通行帯の区分がある道路についても、左折の場合、右の区分に関係なくできる限り左側端に寄るべきことについては、昭和四六年法律第九八号による改正前の道路交通法二〇条四項、三四条一項参照)、逆に右に転把しているし、すでに減速徐行を開始しているところから、被告人運転の車両が左折せず進路を変更し、または小型車を優先直進させてくれるものと誤信して、信号に従つて直進する可能性がある。従つて被告人としては、小型車の運転者が、その専用の通行帯である第一通行帯を進行してきて、被告人運転車両の左折合図に気付かず、あるいは気付いても、前述したような誤信をして直進することの可能性を考慮して、左後方および左側方の安全を確認する義務があるものと考えられる。前記の各判例は、いずれも本件のように、通行帯が設けられている道路において、加害自動車が一旦右に転把した直後左折した場合ではないのであるから、本件と事案を異にし、右各判決の理論をそのまま本件に適用することはできない。

二、弁護人は、また被告人には後方を確認する可能性がなく、結果発生を回避することができないと主張するが、右の主張は、被告人が一旦右に寄つた後左折を開始した当時、被害者が約二〇メートル後方にあつたことを前提とするものであつて、前に判示したように、当時被害者は被告人運転車両の側方にあつたわけであるから、右の主張はその前提を欠き採用できない。

(法令の適用)<略>

(竹重誠夫)

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